脳の病気が原因で起こる症状は非常に多彩です。脳の出血や脳腫瘍では頭痛や嘔吐が出ることがありますし、脳梗塞では起こった脳の部分によって手足や顔の動かしにくさ・言葉のしゃべりにくさ・認知症のような症状などが出ることもあります。
他にも、パーキンソン病のように手足が震える病気や、突然けいれんしたり意識を失ったりするてんかん等の病気もあります。下に書いてあるような症状がある方は一度当クリニックを受診してみてください。
頭痛
頭痛はさまざまな原因で起こってくる症状です。頭痛でお悩みの方も多くいらっしゃることでしょう。
仕事や家事ができないほどのつらい頭痛や、肩こりや首こりからくる痛みの頭痛は日常生活に支障をきたすこともありますので、専門的な治療をおすすめします。また今まで経験したことのない頭痛があった場合は、生命に関わる事態になることもありえます。
頭痛で不安を感じた際は、お気軽に一度受診してみてください。
めまい
「めまい」と表現されるものは非常に多彩な症状や疾患を含んでいます。原因によっては早期治療が必要な場合もありますので、ご心配な症状がある方はご相談ください。
認知症・もの忘れ
「最近テレビを見ていて芸能人の名前がパッと思い出せなくなった」、「人と約束をしていたのを忘れていて当日に焦った」、「物をしまった場所がなかなか思い出せなくなった」、などはもの忘れで受診される方の訴えとして非常に多いものです。多くは加齢に伴う通常の記憶力の低下でありさほど心配はいりませんが、認知症の初期症状の場合もあります。
ご自身で”もの忘れ”がちょっと気になってきたり、「認知症かも?」と感じた場合は、まずはお気軽にご相談ください。
手足のふるえ
手足のふるえは医学的には「振戦(しんせん)」と呼ばれます。このような症状が出てくる代表的な病気としては、本態性振戦、パーキンソン病などが挙げられます。
本態性振戦
50歳以降の方に起こりやすい病気です。高齢者の数%~10%くらいはこの震えを持っているとされており、いわゆる「歳とったら手が震えるようになった」というタイプの震えです。原因ははっきりとは分かっていません。「箸を持った時だけ震える」「コップで水を飲もうとしたら震える」など、手を挙げて何かをしようとした際に震えますが、何もせずにじっとしているときに震えが出ないという特徴があります。
日常生活で困らない程度の震えであればそのまま様子を見ても構いませんが、震えがひどくて生活に支障があるような場合はβ遮断薬という薬や、抗不安薬・抗てんかん薬などを飲んでいただくこともあります。
パーキンソン病
これも50歳以降の方に多い病気ですが、この病気をもつ人は本態性振戦よりも圧倒的に少ないです(0.1%~0.3%程度)。40歳くらいで発症する若年性パーキンソン病もあります。神経の信号を伝えるドーパミンという物質の働きが低下して起こります。
震えの特徴としては安静にしているときに出る震えで、本態性振戦とは逆に手足を動かすときには震えが軽くなったりもします。多くは片側の手足から震えが始まり、数年以上かけて徐々に両手両足に広がります。手足の震えの他にも「仮面様顔貌(無表情になる)」、「筋固縮(筋肉が固くなり、動きがスムーズでなくなる)」、「すくみ足(歩くときに一歩目が踏み出せなくなる)」、「姿勢反射障害(いったんバランスを崩すと立ち直れずそのまま転ぶ)」などの症状が出ることがあり、徐々に進行していきます。
治療としては薬物療法、手術などがありますが、パーキンソン病の可能性がある方は診断や治療を含めて専門の病院(脳神経内科)に紹介させていただきます。
小脳にできた脳梗塞、脳出血、脳腫瘍など
脳梗塞や脳出血や脳腫瘍などが耳の後ろくらいにある「小脳」という部分にできた場合は、どの病気でも手の震えが出る可能性があります。その際の震えは、何かの目標物に向かって手を動かす時に出やすいという特徴があります(例:部屋の電気のスイッチを押そうと指を伸ばした際に、スイッチ近くに来ると震えてしまってスイッチが上手く押せない、など)。CTやMRIで診断可能な場合が多く、必要に応じて高度な医療機関に紹介させていただきます。
その他、何らかの薬剤や薬物・アルコールによる手の震えや、甲状腺機能亢進症という病気で生じる震えなどもあります。
脳梗塞
アテローム血栓性脳梗塞
脳の動脈や頸動脈に動脈硬化(血管の壁が硬く分厚くなること)が生じて、結果として血管が詰まってしまうタイプの脳梗塞です。再発を予防するために抗血小板薬(アスピリンなど)を内服します。
ラクナ梗塞
脳の中心に近い部分にある穿通枝(せんつうし)と呼ばれる細い動脈が詰まってしまう脳梗塞です。再発を予防するために抗血小板薬(アスピリンなど)を内服します。
心原性脳塞栓症
心臓の中にできた血の塊(血栓)が血流にのって脳の血管に詰まることで生じるタイプの脳梗塞です。心房細動という不整脈を持っている方が多いです。広い範囲に脳梗塞が生じることも多く、重症になりやすいです。再発を予防するために抗凝固薬(ワーファリン、ダビガトラン、アピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンなど)を内服します。
注意すべき症状
脳梗塞の初期に出やすい症状としては左右どちらかの手足の脱力や感覚の異常、顔面の左右どちらかの麻痺、言葉の喋りにくさ、意識がもうろうとしている、めまい、視野の異常などがあります。脳梗塞が発生した脳の部位によってさまざまな症状がありえます。
意外に思われるかもしれませんが血管が詰まる脳梗塞では頭痛が初発症状になることは稀です(絶対にないとはいえませんが)。突然の頭痛と一緒に上記の症状が出た場合はどちらかというとこの次に書いてある脳出血やくも膜下出血を心配した方がよいでしょう。
脳梗塞の治療は近年著しく進化しており、詰まっている血栓を協力に溶かす薬(tPA)や、カテーテルで詰まった血栓を除去する(血栓回収療法)の登場で治療成績がかなり向上しています。これらの治療は発症からの時間が早ければ早いほど治療を行える確率や治る確率が上がります。症状が急に出てきた場合は早めの受診や救急要請をお勧めします。
脳出血
突然脳の血管が切れることにより脳の内部に出血する病気です。症状としては上に挙げたような脳梗塞の症状のどれかに加えて、突然の頭痛や嘔吐が出ることが多いです。高血圧、喫煙、過度の飲酒などが脳出血のリスクとされています。
出血が小さい場合は入院して安静にしつつ出血が消えていくのを待ちます(保存的加療と言われます)が、ある程度の大きさの出血で生命の危険が高い場合は手術で出血の塊を取り除きます(血腫除去術)。
くも膜下出血
脳の動脈にできた脳動脈瘤というコブが破裂することで起こる出血です。脳と脳の隙間の部分(くも膜下腔といいます)に出血が起こり、非常に重症になります。発症した後に死亡する確率は脳梗塞や脳出血よりも高く、病院に到着する前に亡くなる方も多いです。皆さんがイメージする「ぽっくり逝ってしまう脳の病気」に一番近いと思います。それまでの人生で経験したことのないような突然の激しい頭痛が特徴的な症状です。嘔吐や意識の障害も出ることが多いです。
治療としては頭を大きく開けて動脈瘤をチタン製のクリップで挟んで潰すクリッピング術と、動脈の中に入れたカテーテルから細い針金のような物を動脈瘤の内部に詰め込んで潰すコイル塞栓術の2通りがあります。
ただしこれらの治療はあくまでも脳動脈瘤が再び破裂して死亡するのを防ぐためのものであり、最初のくも膜下出血の時点で脳に与えられたダメージを治す治療ではありません。社会復帰できるレベルまで治るかどうかは最初の出血の程度と、その後の御本人の回復力にかかっています。
脳の動脈狭窄(脳の動脈が狭くなる病気)
頸動脈狭窄症、脳動脈狭窄症
酸化された悪玉コレステロールが動脈の壁の内側に蓄積(プラーク)すると、血管の壁は分厚くなり、そのぶん血液の通り道が狭くなります。頸動脈や脳の動脈が狭くなれば最終的に脳への血流が足りなくなったり、プラークの一部が剥がれて脳の血管に詰まって脳梗塞を起こしたりします。
当クリニックでもMRA(MRIの機器で血管だけを写す検査をMRAといいます)や、頸動脈エコー(超音波検査)で動脈の狭さやプラークの有無を調べることができます。血管がかなりせまくなっていて脳梗塞の危険性が高そうな方は、専門の病院に紹介させていただきます。
頸動脈の動脈硬化が強い方には、頸動脈を切り開いてプラークを除去する手術(頸動脈内膜剥離術=CEA)、カテーテルを動脈の内部に入れて狭い部分にステントという金網の筒を置いた上で風船でふくらませる血管内治療(頸動脈ステント留置術=CAS)などを行い、脳梗塞の予防を行います。
頭の内部の動脈硬化が強い方には、頭皮や頭の筋肉の動脈を脳の動脈につなぐ手術(バイパス手術)や、頸動脈と同じようにしてカテーテルで内部から血管を拡げる血管内治療が行われます。
もやもや病
5歳くらいの子どもさん、もしくは30~40歳くらいの方に起こることがある病気です。頸動脈が頭の中にちょうど入ったあたりで狭くなっていく病気です。だんだんと進行して、最終的には脳梗塞や脳出血を起こすことがあります。遺伝子の異常によって病気が生じている方もいて、親族内で複数に発生しているケースもあります。
クリニックのMRA検査で病気が見つかった場合、専門の病院にいってさらに詳しい検査を受けていただきます。脳梗塞の予防のために血液を固まりにくくする抗血小板薬を飲みます。それでも脳梗塞のリスクが高い場合は上にも書いたバイパス手術を行います。
脳腫瘍
頭の中に生じるできもの(医学的には癌と呼ばないものもたくさん含まれますので「脳の癌」とは呼ばずに「脳腫瘍」とひっくるめて呼ばれます)の事です。良性の腫瘍や悪性の腫瘍、脳の内部にできる腫瘍や脳を包む膜にできる腫瘍など、さまざまな脳腫瘍が存在します。神経膠腫、髄膜腫、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、神経鞘腫、…などなど何十種類もの脳腫瘍があります。それぞれの細かい腫瘍の性質の説明などは他に詳しく説明してくれているホームページがたくさんありますので、細かく知りたい方は腫瘍の名前で検索してみてください。ここではそれぞれの細かい説明は省略して全体的な話を書かせていただきます。
脳腫瘍ができた場合、良性であれ悪性であれ大きくなってくると頭の中が満員電車のようなスシ詰め状態になり圧力が高くなります。この際には頭痛や嘔吐といった頭蓋内圧亢進症状と呼ばれる症状が出てきます(特に早朝に強い傾向にあります)。
その他にも脳腫瘍ができた部位に応じて、手足の麻痺や言葉の障害、視野の障害、ホルモン分泌の障害などさまざまな症状が生じてきます。これは脳梗塞などと原理が似ています。
悪性の脳腫瘍であれば癌のようにどんどん周りの脳組織を侵食しながら増えていくような経過になります(ただし癌のように他の臓器に転移することはほとんどありません)。できるだけ腫瘍を取り除くための手術を行った後に、放射線治療や抗がん剤の治療を行う場合が多いです。
良性の脳腫瘍であれば多くのものは脳組織を破壊するのではなく押しのけるようにして増殖していきます。ものによっては長年大きさがほとんど変わらずに様子をみても問題ないこともあります。しかし良性の脳腫瘍であっても脳の重要な部分が脳腫瘍に圧迫されると手足の麻痺が出たり言葉の障害が出たり、命に関わる状態になったりすることがあります。そのような場合は手術で脳腫瘍を摘出したり、腫瘍が小さいうちにガンマナイフなどの放射線治療で腫瘍の増殖を止めたりします。
多くの脳腫瘍はMRIで見つけることが可能ですが、腫瘍の良性・悪性の診断、さらに細かい分類は実際に手術で摘出してみないとわからないことも多いです。悪性と分類されるものでも治療で元気にまあまあの長期間生きられる人もいますし、良性の腫瘍でも大きさやできる場所によってはそれが難しい人もいます。脳腫瘍とひとくくりに呼んでもその治療や経過は患者さんによってかなりバラつきがあります。
小さな良性腫瘍が大して危険でない部分にできている場合はクリニックのレベルで様子を見ていくこともありますが、そうではない場合は専門的な診断や治療のために大きめの専門の病院に紹介させていただきます。
頭部外傷
頭に強い衝撃が加わると頭蓋骨が骨折したり頭の中に出血したりします。CTやMRIでその診断が可能です(頭蓋骨骨折に関してはCTの方がはっきり見えやすいケースも多いのでCTを優先することもあります)。
頭の中の出血(急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳挫傷、慢性硬膜下血腫)
慢性硬膜下血腫は上の方にも書きましたが、頭を打って1~2ヶ月経ってからじわりと出血がたまるタイプのもので、緊急性はないことがほとんどです。ここではそれ以外の緊急性のある3つに関して書きます。※「慢性」はゆっくり、だらだらとというような意味合いで、「急性」は急激に、という意味合いです。
急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳挫傷は頭部の外傷の直後に頭の中に急激に出血が起こるという点では同じですが、出血が起こる部位が異なります。硬膜という脳を包む膜の外側に出血が起これば急性硬膜外血腫、硬膜の下で脳よりも外側に起これば急性硬膜下血腫、脳そのものが傷ついて出血した場合は脳挫傷です。
いずれも出血の量が少なくて自力で出血が止まっていれば入院してそのまま様子を見ます。手足にできる内出血と同じように、数日から1ヶ月程度経てば出血は消えていきます。
出血の量が非常に多くて死亡する危険性が高い場合、出血が出続けている(もしくはそう予測される)場合には緊急で手術を行い、出血の塊(血腫=けっしゅ)を取り除きます。重傷の場合は手術を行っても助からないもしくは後遺症が残ることがあります。当クリニックでもこれらの急性の出血が見つかった場合は救急の病院に紹介させていただきます。
頭蓋骨骨折
頭蓋骨の骨折はヒビ程度であることが多く、様子を見ていれば自然にくっついてきます。ヒビの部分で大きく骨同士が離れてしまっている場合や、乳幼児の骨折で成長に伴って骨折したヒビが広がっていくような場合(growing skull fractureといいます)は手術をすることもあります。他にも、バラバラに骨が砕けるような形の骨折や、一部だけ骨が陥没してしまっているような骨折も手術をすることがあります。
専門の病院で入院して治療をした方がよい骨折として他にも髄液漏(ずいえきろう)を起こしているケースがあります。鼻や耳の近くの骨を骨折すると、ヒビを通じて鼻や耳から脳髄液が漏れてくることがあります。頭の外傷の後に鼻や耳からサラサラとした透明(もしくは薄い黄色やピンク)が出てきている場合は受診をお願いします。放置しておくと漏れた脳髄液を通じて雑菌が逆に脳の方に入っていって髄膜炎や脳炎を起こすことがあります。
頭を打ったけど、受診した方がいいの?と迷う場合
頭を打ったけど受診したほうがいいのか迷うケースは多いと思います。打ったのが子どもさんであればなおさらです。頭の皮膚が切れて派手に出血していればまず受診するでしょうが、そうでもない場合は迷う方が多いです。俗に言われる「たんこぶができていれば頭の内部は大丈夫。たんこぶができてないのは危ない」というのは全くの嘘で、たんこぶの有無と頭の内部の損傷の有無には関係はありません。
まず原則として「大丈夫かどうかよく分からないし不安だ」という場合は遠慮なく受診していただいて構いません。
医師向けにはCanadian CT Head RuleやPECARN小児頭部外傷ルールなどの「外傷後に頭のCTを撮るべきかどうかの判断基準」があります。細かく知りたい方はその名前で検索していただければ読むことができます。
これらをざっと噛み砕くと、CTを撮ったほうがよいケースとしては、
- 頭を打った直後に気絶していた
- 頭を打った後に嘔吐した
- 頭を打った後にボーッとしている、ほうっておくとすぐに眠ったような状態が続いている(意識障害)
- 頭を打った後や前の記憶がない(※「突然だったのでどのようにぶつかったか分からなかった」という意味で「覚えていない」と表現される方はよくいますが、これはそういうレベルでの「記憶がない」の話ではなく、ぶつかった前後の数十分以上の記憶が抜け落ちている場合です)
- 高いところから転落した
- 車にはねられた事故、バイクでの事故、車の車内から放り出されるような事故で頭を打った
- 打った場所が明らかに陥没している、頭が変形している
- 鼻や耳から水が漏れてきている(髄液漏の可能性があります)
- 頭を打った後に目の周りや耳の周りに内出血が起きている(頭蓋骨骨折の可能性があります)
- 親からみて頭を打ったあとの子供の様子がなにか普段と違う、おかしい
などです。
ただしここに挙げた基準はあくまで指標のひとつですしかなり簡略化していますので、当てはまらなければ絶対大丈夫と保証してくれるものでもありません。判断がつかない、よく分からないという場合は遠慮なく受診してください。
生活習慣病
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、脳卒中に大きな影響を与えます。
そのため、日頃から生活習慣病に注意し、治療をしていくことが非常に大切になり、当院においても積極的に取り組んでいます。ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。