片頭痛(偏頭痛)とは?
皆さんは片頭痛という単語自体は聞いたことも使ったこともあると思います。ただし医療従事者が使う「片頭痛」と皆さんが使う「片頭痛」はやや意味がズレていることが多いです。
一般的に使われる「片頭痛」という単語は「頭の片側が痛む頭痛」といった程度の意味合いで言われていることが多いです。「わたし片頭痛持ちでさ~イブとかロキソニンが手放せなくて」などという会話は聞いたことがある方が多いでしょう。病院できちんと片頭痛という診断を受けている場合は別ですが、多くの方が自分で言っている「片頭痛」は「筋緊張型頭痛」、「後頭神経痛」、「頸肩腕症候群」など様々な別の疾患である場合も多いです。
しかし医学的な意味で使われる「片頭痛」は、独特のメカニズムで頭痛の発作が起こるタイプの疾患を指す立派な病名です。このタイプの片頭痛には専用の薬が近年多く開発されてきており、治療の成績も向上しています。
医学的な疾患としての「片頭痛」のメカニズム
医学的な疾患として呼ばれる「片頭痛」が生じるメカニズムとして、以前は「脳の血管が縮こまったり拡張したりする際に神経が圧迫されて頭痛が起こる」と言われていましたが、これは近年の研究では主な片頭痛の原因ではないと考えられています(※ただし片頭痛の発生や悪化にある程度関わっているとは言われています)
最近では片頭痛の一番の原因として「頭の中の三叉神経という神経の末端が精神的ストレスなどの何らかの刺激をうけた際にCGRPやサブスタンスPと言われる物質を放出し、局所的な炎症が引き起こされる」 という説が有力とされています。
片頭痛の最新の注射薬であるCGRP阻害薬(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ等)はこの痛みの原因物質であるCGRPの働きを直接妨げることで片頭痛を改善させます。
片頭痛の症状の特徴
片頭痛の特徴として以下のようなものがあります。片頭痛とは呼ばれますが両側に痛みが出ることもよくあります。以下のような特徴のある頭痛の発作がある程度決まったパターンで何度も出ている方は片頭痛の可能性が高いと考えられます。
- 発作的に頭痛が出てきて、数時間から長ければ2~3日続く
- 頭の片側または両側に、脈打つようなズキズキとした痛みやガンガンとした痛みを感じる
- 痛みの程度が強く、体を動かすとさらに悪化することがある。日常生活に支障が出る
- 頭痛に吐き気や嘔吐を伴うことが多い
- 頭痛の際に光や音、においに敏感になる
- 人によっては頭痛の発作の前兆・予兆を感じ取ることができる
※前兆や予兆は例えば光が見える(特にギザギザした光が見えるものを閃輝暗点と呼びます)、めまい、気分の悪さ、眠気、イライラ、肩こり、などがあります。
片頭痛で行われる検査
片頭痛を見分ける際には問診や診察が最も重要です。「片頭痛である」と診断をつけるための専用の検査機器は現時点では存在しません。ただし、脳卒中や脳腫瘍などの危険な病気からくる頭痛の可能性も考慮して頭のCTやMRIは一度やっておくケースが多いです。特に、ギザギザの光が見える閃輝暗点の症状は脳卒中と関連して生じている場合もあるので注意が必要です。その他の病気が隠れていないか探す意味合いで採血や心電図を行うこともあります。
片頭痛の治療
片頭痛の治療薬には大きく分けて片頭痛が出てきたときにだけ飲む「頓服薬」と、毎日定期的に飲んだり毎月注射を打ったりすることで片頭痛の回数や強さを減らす「予防薬」の2種類があります。
片頭痛の頓服薬
トリプタン製剤(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタン)
トリプタン製剤は2001年に発売された薬で、片頭痛の前兆が来たときやその後に頭痛が始まってすぐのタイミングで飲む薬です。セロトニン受容体(5-HT1B受容体と5-HT1D受容体)に作用し、三叉神経の細胞から痛みの原因物質が放出されるのを抑えます。また、脳の血管の拡張を抑制することによっても片頭痛を軽減すると言われています。
血管を収縮させる作用があるので、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの血管が狭くなる系統の病気がある方には使えません。
ラスミジタン(商品名:レイボー)
ジタン系の薬剤で、トリプタンとは少し異なるセロトニン受容体(5-HT-1F受容体)に働きます。中枢神経の過剰な興奮を抑えることと、三叉神経から痛みの原因物質が放出されるのを妨げることで片頭痛を抑え込みます。
トリプタンとは異なり、狭心症や脳梗塞などがある方でも使うことができます。
※ トリプタンやラスミジタンは一度の受診でたくさんの量を処方することは制度上できない(一度の受診あたり10回分まで)ので、あまり頻繁にトリプタン製剤やラスミジタンが必要な状態であれば片頭痛の予防薬を定期的に使うことを考えたほうがよいと思います。
※「片頭痛の可能性が高そうだけど典型的な片頭痛の特徴が少ない…」という患者さんに対して試しにトリプタンやラスミジタンを使ってみることもあります。これらの薬が効くようであれば医学的な意味合いでの「片頭痛」という診断がつきます。
アセトアミノフェン(カロナール)、イブプロフェン(イブ)、ロキソプロフェン(ロキソニン)
片頭痛以外の様々な病気や怪我の痛みに用いられるこれらの一般的な鎮痛薬も、軽度~中等度の片頭痛には有効な場合があります。ただし何年も使っているうちにあまり効かなくなってきて、薬の量ばかり増えて悪循環に陥っている方もいるので注意が必要です。
頻繁にこれらの鎮痛薬が必要になっている患者さんは、ぜひトリプタンやラスミジタン、もしくは下に述べるような片頭痛の予防薬を検討してみてください。
片頭痛の予防薬
バルプロ酸ナトリウム(デパケン、セレニカ等)
かなり昔から使用されている片頭痛の予防薬です。1日1回~3回飲む薬で、てんかんの患者さんに対しても多く使われています。
プロプラノロール(インデラル)
β遮断薬というタイプの薬で、高血圧や不整脈の患者さんの治療にも使われることが多い内服薬です。血管を拡張することにより片頭痛を緩和すると言われています。妊娠中でも使用できる片頭痛の薬です。
ロメリジン(ミグシス)
Ca拮抗薬というタイプの薬です。脳の血管の収縮や拡張を抑えて安定させる効果があります。片頭痛の回数が減ったり、片頭痛のときの痛みの程度が軽くなったりといった効果が期待できます。
CGRP受容体関連抗体(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ等)
上にも述べた片頭痛の原因となる痛みの物質の働きを妨げることにより、強い予防効果を発揮します。1ヶ月に1回使用する皮下注射の製剤であり、患者さんが自分で自分自身に投与できるようなペン型の自己注射キットとして発売されています。もちろん病院において医師や看護師に投与してもらうことも可能です。
重症の片頭痛の患者さんにも効果が高く、現時点では片頭痛の最終兵器というような雰囲気の薬ですが、値段が高いのがネックです。3割負担の方でだいたい薬剤1本あたり13000円~14000円払うことになります(エムガルティだけは最初の月は2本注射を使用するので28000円以上かかります)。ただしそれだけ高価でも実際に投与を続けたいと希望する患者さんが増えてきているので、やはり効果は高いようです。
※ 上記の片頭痛予防薬は、予防薬1~2種類を併用している方もいますし、予防薬を飲みつつそれでも頭痛の発作が来たら頓服薬を使うという方もいます。予防薬で完全に片頭痛の発作が消える状態にまで至らなかったとしても、そこに頓服薬を上乗せすることでかなり過ごしやすくなる方が多いです。
片頭痛の治療で迷っていらっしゃる方へ
「週に何回か強い頭痛が来てるけどまあその時に薬のめば何とか耐えられてるし…別に今のままでもいいや」という患者さんは多いです。もちろんそれでも生活していける方は多いでしょうし、それでもよいのではないかとも思います。
しかしロキソニンやイブプロフェンという薬は頻繁に飲みすぎると副作用で胃が荒れる可能性もありますし、あまりに長期間にわたり頻繁に飲んでいると逆に「薬剤乱用性頭痛」という副作用のような頭痛を発症するケースもあります。
また、トリプタン製剤で何とか頭痛をしのげているという方も、予防薬を定期的に飲んだり月1回の注射薬を使用したりすることで頭痛の回数や強度が減ってさらに生活が楽になるケースが多いです。
片頭痛の患者さんは頭痛があるときはもちろんですが、頭痛が無いときも「もしかしたら頭痛の発作が来るかもしれないな…」、「旅行に行ったときに頭痛の発作がきたらどうしよう…」などと思い悩んで、本来であればできるはずの活動、やりたいはずの活動に制限を加えてしまっている方も多いです。
まだ予防の内服薬や注射薬を試したとことのない方は、予防薬を使用することで大きく生活の質が上がる可能性があります。ぜひ当院まで一度ご相談ください。