脳血管障害(脳卒中)
脳卒中とは?
脳卒中とは、脳の血管が破れたり詰まったりして、脳の働きに障害が起きる病気です。
脳卒中、脳出血、脳梗塞、脳溢血(のういっけつ)など似たような響きの言葉が多く、混乱しやすいので整理してみましょう。
脳梗塞
・脳卒中
突然に脳の血管が破れるか詰まるかして起こる病気をひっくるめて脳卒中と呼びます。「卒中」の卒は「突然に」、中は「中たる(あたる)」という意味です。脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などを全て含んだ言葉です。外傷や事故により生じたものではなく、自然発生的に生じたものを脳卒中と呼びます。
・脳梗塞
脳の血管が詰まってしまって酸素が行き渡らなくなることで脳細胞がやられた状態のことです。
・脳出血
突然に脳の血管が破れて脳の内部に出血が起こり脳細胞が破壊された状態のことを指します。
・くも膜下出血
くも膜下腔という脳の表面や隙間のスペースに出血が起こった状態を指します。脳の動脈にできた動脈瘤という瘤が破裂して生じることが多いです。
・脳溢血(のういっけつ)
脳の血管が破れて血が溢れる状態、つまり本来は脳出血のことです。脳溢血は現代の医療の現場や医学の論文では使われなくなった言葉です。日本でCT検査機器が普及してきたのは1970年代後半ですが、それ以前は脳梗塞や脳出血やくも膜下出血を正確に診断することは困難でした。詰まったのか破れたのかはハッキリしないれども脳の血管に問題が起きて病気が生じた場合にひっくるめて脳溢血と呼んでいたようです(つまり「脳溢血」=「脳卒中」の意味で使われていたケースが多いと思われます)。
実際に病院に来られた患者さんに家族がかかったことのある病気(家族歴)を尋ねると、1970年代以前くらいに亡くなった親や祖父母の病名ではよく「脳溢血」という言葉が出てきます。
脳血管障害(脳卒中)についてもう少し詳しく解説します。

脳梗塞

脳梗塞は脳の血管(主に動脈)が突然つまることにより、脳細胞に酸素が行き渡らなくなって死んでしまう病気です。あるとき突然に片方の手足が麻痺したり、顔の片側が麻痺したり、しゃべり方がおかしくなったり、めまいがしたりなど、やられた脳の場所によって様々な症状が出ます。MRIの検査でかなり早期の小さな脳梗塞も見つけられるケースが増えてきていますので、怪しい症状が出てきたらすぐに受診してください。

脳梗塞の症状(代表的なもの)

  • 手足の動かしにくさ、脱力…左右どちらかに起こることが多いです。
  • 顔の麻痺…顔の片側が麻痺して垂れ下がり、左右対称でなくなります。
  • 手足や顔の感覚の障害…触覚や痛覚がなくなったり鈍くなったり、ジンジンとした痛みが出たりします。これも左右どちらかに起こることが多いです。
  • 言葉の障害…呂律が回らなくなったり、言葉そのものが出てこなくなったり理解できなくなったりします。
  • 視野の障害…視野の一部が欠けて見えなくなったりします。ものが二重に見えることもあります。
  • めまい…強いめまいが長時間つづくことが多いです。平衡感覚がなくなることもあります。
これらの症状が突然出てきた場合は急いで病院を受診してください。一時的に症状が出て治ったという場合も同様です。脳梗塞は発症してからとにかく早く病院で診てもらうことがその後の治療や回復の具合を左右することも多いので急いで受診しましょう。

脳梗塞の治療

脳梗塞になった場合の治療としては以下のようなものがあります。

点滴で水分を補給

血管の中に水分がたくさんあるほうが血栓もできにくく、血液の流れもよくなることが期待できるので水分補給を行います。これも立派な治療のひとつです。

血液を固まりにくくする薬の投与

アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール、プラスグレルなどの「抗血小板薬」という薬、もしくはヘパリン、ワーファリン、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなどの「抗凝固薬」という薬を使用します。これはどちらかというと脳梗塞がそれ以上進行しないようにする、脳梗塞を再発させないようにするという意味合いの治療ですがこれも重要です。

脳保護剤の投与

エダラボンという薬は日本で開発されました。血流が途絶えて脳細胞に酸素が行き届かなくなったときに、フリーラジカル(活性酸素の一種)が発生してそれがさらに脳細胞にダメージを与えますが、エダラボンはこのフリーラジカルを捕らえてブロックする薬です。ただし欧米では脳梗塞には使われていません(日本国内でしか治験が行われていないことも原因です)。※現在ではエダラボンはALSという難病の治療薬として欧米でも使用されています。

リハビリテーション

すでにやられてしまった脳の機能を少しでも回復させるという意味合いではリハビリテーションが重要です。ただしリハビリテーションでも失われた機能が完全に回復するとは限らないので、その場合は代わりの手段で少しでも自分で生活できることを目標とする場合も多いです(例:利き手の右手が麻痺した→左手で生活する練習を行う、など)

急性期再開通療法

昔は詰まった血管をもう一度開通させるような劇的な治療は確立されていなかったので、治療の主体はなるべく脳梗塞をそれ以上悪くさせない・再発させないための投薬治療と、失われた脳の機能を少しでも改善させるためのリハビリテーションでした。
しかし2005年からは日本でも組織プラスミノーゲン・アクチベータ(tPA)という薬が承認され、詰まった脳の血管をいそいで再開通させるという選択肢が拡がりました。
脳梗塞は脳の動脈が詰まってから実際に酸素不足で脳細胞が死んでしまうまでに少しタイムラグがあるのが特徴です。完全に脳細胞がやられてしまう前に血管をもういちど開通させてあげれば麻痺などの症状も治る可能性があるのです。
tPAという薬は、当初は脳梗塞の発症から3時間以内に投与すれば効果があるとして承認されました。2012年以降は4時間半以内であれば投与が可能ということで時間が延長されました。
さらに近年では血栓回収療法といって、細いカテーテル(管)を動脈の中に入れ、その管を用いて詰まった血の塊(血栓)を取り除いてしまう治療も発達してきており、4時間半を過ぎてしまった患者さんでも劇的に治るケースも出てきています。
ただし、これらのtPA治療やカテーテル治療は患者さんによっては使えませんし、絶対に脳梗塞が完璧に治るというわけではありません。発症してからの時間や脳梗塞の重症の度合い、もともとの持病などを細かくチェックした上で再開通療法を行うかどうかを決めます。
「もう一度血管を再開通させようとトライするのは良いことだし脳梗塞になったらとりあえず全員にやればいいじゃない?」と思われる方もいるかもしれません。しかし副作用や合併症のリスクを考えると全員に必ず試すというわけにもいきません。
tPA治療や血栓回収療法で血管を再開通させたときに、頭の中に大きく出血を起こすことがあります。すでに酸素不足でかなり脳細胞が壊れてしまっている場合は、治療によって血流が急に再開するとすでに壊れた脳から出血を起こすのです。この出血の副作用・合併症によって寝たきりになったり命を落としたりする方もおられます。そのため脳梗塞の患者さん全員にとりあえず劇的な治療を試すというわけにはいかないのです。

脳梗塞の分類と予防

上に述べたように脳梗塞の治療は近年かなり発達してきており、治療の成績も改善してきています。しかし新しい治療をもってしても全員が完全に治るとは限らず、重い後遺症が残って介護が必要になる方も多いです。
脳梗塞の死亡率は10%くらいなので、「脳でコロリと死ねるならそのほうがいい」という理屈も通用しません。後遺症つきで不自由なまま生き残る方のほうが圧倒的に多いので、やはり予防が重要といえます。
脳梗塞は大きく分けて3つに分類されます。分類と予防に関して以下に述べます。

ラクナ梗塞

脳の奥深くにある穿通枝(せんつうし)と呼ばれる細い動脈に動脈硬化が起こって詰まるタイプの脳梗塞です。細い血管ですのでカテーテルの血栓回収療法は使えません。
予防:未然に予防するためには動脈硬化を防ぐことが最も重要です。一度ラクナ梗塞を起こしたことのある方は抗血小板薬という予防薬を飲み続ける必要があります。MRIで写らないレベルの細い動脈が詰まるので、脳ドックなどを受けてもラクナ梗塞をピンポイントで予測することはできません(※全体的な脳の動脈硬化の程度は分かりますので、何となくリスクが高そう・低そうだということは分かります)。

アテローム血栓性脳梗塞

脳や首のの比較的太い動脈に動脈硬化が起こって徐々に狭くなっていき、最終的に詰まってしまうタイプの脳梗塞です。カテーテルの血栓回収療法が使える場合もあります。
予防:未然に予防するためには動脈硬化を防ぐことが最も重要です。また、脳ドックなどで脳の特定の動脈が狭くなってきているのをあらかじめ見つけられれば脳梗塞を未然に予防することも可能です(ただし抗血小板薬を飲んだり、カテーテルの治療やバイパス手術を受けたりといったことが必要になることがあります)。一度アテローム血栓性脳梗塞を起こしたことのある方は抗血小板薬という予防薬を飲み続ける必要があります。

心原性脳塞栓症

心房細動という不整脈を持っている患者さんに多いタイプの脳梗塞です。不整脈のせいで心臓の中に血栓(血の塊)ができて、それが血流に乗って脳まで行って血管をつまらせてしまうというメカニズムです。血栓回収療法が有効なことが多いです。
予防:未然に予防するためには健康診断などで心房細動を早めに見つけて治療を受けることが重要です。どうしても心房細動が治らなかった場合は抗凝固薬という薬を飲み続けることで脳梗塞をかなり予防できます。一度でも心原性脳塞栓症を起こしたことのある方は抗凝固薬を飲み続ける必要があります。ちなみに心原性脳塞栓症の予防においても動脈硬化を防ぐことはやはり重要です。
※3つのタイプいずれにおいても、発症時間やその他の条件をクリアできればtPA療法は使えることがありますし使えないこともあります。
どのタイプの脳梗塞の予防にも「動脈硬化を防ぐこと」が重要です。そして動脈硬化を防ぐためには以下のようなことが重要になります。
  • 高血圧があれば治療する
  • 糖尿病があれば治療する
  • コレステロールが高ければ治療する(悪玉コレステロールや中性脂肪)
  • 尿酸値が高ければ治療する
  • 禁煙する
  • お酒は控えめにする
  • 毎日軽い運動をする
  • 肥満の人は痩せる
  • こまめに水分補給する
結局のところ、世間でよく言われている「生活習慣の改善」が全ての脳梗塞の予防にとって重要ということです。

脳出血

突然脳の血管が切れることにより脳の内部に出血する病気です。症状としては上に挙げたような脳梗塞の症状のどれかに加えて、突然の頭痛や嘔吐が出ることが多いです。高血圧、喫煙、過度の飲酒などが脳出血のリスクとされています。
出血が小さい場合は入院して安静にしつつ出血が消えていくのを待ちます(保存的加療と言われます)が、ある程度の大きさの出血で生命の危険が高い場合は手術で出血の塊を取り除きます(血腫除去術)。

くも膜下出血

脳の動脈にできた脳動脈瘤というコブが破裂することで起こる出血です。脳と脳の隙間の部分(くも膜下腔といいます)に出血が起こり、非常に重症になります。発症した後に死亡する確率は脳梗塞や脳出血よりも高く、病院に到着する前に亡くなる方も多いです。皆さんがイメージする「ぽっくり逝ってしまう脳の病気」に一番近いと思います。それまでの人生で経験したことのないような突然の激しい頭痛が特徴的な症状です。嘔吐や意識の障害も出ることが多いです。
治療としては頭を大きく開けて動脈瘤をチタン製のクリップで挟んで潰すクリッピング術と、動脈の中に入れたカテーテルから細い針金のような物を動脈瘤の内部に詰め込んで潰すコイル塞栓術の2通りがあります。
ただしこれらの治療はあくまでも脳動脈瘤が再び破裂して死亡するのを防ぐためのものであり、最初のくも膜下出血の時点で脳に与えられたダメージを治す治療ではありません。社会復帰できるレベルまで治るかどうかは最初の出血の程度と、その後の御本人の回復力にかかっています。
頭痛の早期治療、病気の早期発見・予防に定期的なMRI検査をおすすめします。
※頭痛、めまいなど症状のある方は、保険を使用してのMRI検査が可能です。
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