突然、顔の左右どちらかが麻痺してしまい動かなくなった…そんな恐ろしい症状が出る病気があります。症状に気がついたら放置せずに、早めに受診することが重要です。
症状について
脳外科に顔の麻痺の患者さんが来られたときに医者がまずどこを気にするか…
それは
- 麻痺している側のおでこの筋肉も麻痺しているか
- 顔の麻痺以外に手足の麻痺や言葉の障害が出ていないか
- 耳や口の周りに発疹が出ていないか
という点です。ひとつずつ解説していきます。
麻痺している側のおでこの筋肉は麻痺しているか
おでこの筋肉(前頭筋)の神経は両側支配といって、「右脳の電気信号が左右両方のおでこを動かせる」、なおかつ「左脳の電気信号も左右両方のおでこを動かせる」ようになっています。なので、脳の内部の問題で顔が麻痺した場合は、左右どちらかの頬や口の筋肉が麻痺していても反対側の脳の電気信号によっておでこだけは動かせることが多いです。これを中枢性顔面神経麻痺といいます。脳出血や脳梗塞、脳腫瘍などの可能性を考えなければいけません。それに対して顔の表面に近いところを走っている顔面神経という神経は、きっちり左右に別れて顔の筋肉を支配しています。なので、脳以外で顔の神経がやられてしまった場合は、おでこから口の周りまで全体的に麻痺がでることが多いです。これを末梢性顔面神経麻痺といいます。ベル麻痺、ハント症候群、聴神経腫瘍(顔面神経の近くにできる良性の腫瘍)などの可能性を考えます。
顔の麻痺以外に手足の麻痺や言葉の障害が出ていないか
上記のおでこの筋肉の麻痺は必ずしも中枢性顔面神経麻痺と末梢性顔面神経麻痺とを100%見分けられる特徴ではありません。例外的な症状の出方をする人も多いです。ただし、脳梗塞や脳出血などによる中枢性顔面神経麻痺の場合は顔面の麻痺以外の症状も出ていることがあります。手足の麻痺や言葉の障害などです。手足の麻痺や言語障害など、顔以外の症状も伴っているときは脳の重大な病気の可能性がより高いと思われますので急いで受診するか救急車を呼ぶかしてください。
耳や口の周りに発疹が出ていないか
末梢性顔面神経麻痺のうち、ハント症候群では耳や口に発疹が出やすいとされています。ハント症候群は水ぼうそうに昔かかった人の体内にいる水ぼうそうのウイルスが活性化することにより顔の麻痺が出るので、帯状疱疹のようなブツブツが出てきたり難聴が生じたりすることがあります。
検査について
顔の麻痺を起こすような脳の病気が起こっていないか、頭のMRIなどで確認する必要があります。
当院では診察と頭のMRI検査を行い、末梢性顔面神経麻痺の可能性が高い場合は近隣の耳鼻咽喉科に紹介させていただきます。中枢性顔面神経麻痺の可能性が高い場合、大きな病院の脳神経外科や脳神経内科に紹介させていただきます。
ベル麻痺、ハント症候群について
末梢性顔面神経麻痺の中でも最も数が多いのがベル麻痺とハント症候群です。どちらもウイルスが原因で引き起こされます。顔の半分の麻痺が後遺症として残ってしまう場合もあります。
ベル麻痺
単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)というウイルスが原因で生じます。このウイルスは一度感染すると一生体内に潜伏し、疲れやストレスなどで免疫が低下したときにウイルスが再び活性化してきます。これにより顔面神経が腫れてしまい、骨の内部の細いトンネルを走っている顔面神経は腫れによって締め付けられて血流も落ちてしまい障害を受けます。これにより顔の片側が麻痺します。早期に薬の治療を始めた方は90%程度が回復すると言われています。
ハント症候群
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)というウイルスが原因で生じます。顔面神経麻痺が起きるメカニズムは上記のベル麻痺と同じで、水ぼうそうのウイルスが再活性化することで顔面神経がやられてしまいます。ベル麻痺よりは治癒率は低く、概ね50%~80%程度が回復すると言われています。
ベル麻痺、ハント症候群の治療について
上記のベル麻痺、ハント症候群に対する治療として一番重要なのが副腎皮質ステロイド薬の投与です。ステロイドを短期間限定で大量に投与することで、顔面神経の腫れを軽減させます。ステロイド薬にはいくつか副作用があるので、場合によっては入院して点滴で治療を行うこともあります(外来通院で内服薬でいけることもあります)
その他にも、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬や、神経の保護作用があるビタミンB12製剤も使用されます。
また、目の周りの筋肉が麻痺することでまぶたが開いたままになってしまい、ドライアイから角膜炎や結膜炎になる方もいますので、ヒアルロン酸の点眼液を使用する場合もあります。