手足のふるえ
最近よく手がふるえる、口や頭がふるえる…これらの症状も脳の病気から来ている可能性があります。ふるえの症状を医学用語では「振戦(しんせん)」と呼びます。
手足や口や頭のふるえが出てきたときは、まずはそれがいつ、どのようにふるえてくるかを確かめてみてください。
手足のふるえ

ふるえ(振戦)のパターンによる分類

じっとして何もしていないときに震える(安静時振戦)

じっとしているときに手足がふるえてしまうタイプのふるえです。パーキンソン病によく見られます。ときには、ピルローリング(pill rolling)といって、丸薬を指先でこねるような震えも出ることがあります。しかし、ふるえている手足を意図的に動かすと震えは軽くなるという特徴があります。

特定の姿勢をとったときに震える(姿勢時振戦)

コップをもった時、ペンを持って字を書こうとした時など、手足を持ち上げて何らかの姿勢で保持したときに出てくるタイプのふるえです。力を抜いてじっとしていればふるえが止まります。本態性振戦という病気でよく見られます。手に出やすいふるえであり、安静時振戦とは違って手足を意図的に動かすとさらにふるえが悪くなりやすいです。

特定の目標に向かって手足を動かそうとした際に震える(企図振戦)

電気のスイッチを押そうと手を伸ばした際にスイッチが近づくほど指が震える、など特定のゴールが近づいた際にふるえが出てくるパターンです。小脳という部分に病気があるときに出やすいふるえです。水の入ったコップを持って、飲もうとして口に近づけるとふるえが強くなるといった具合です。ぱっと見では上記の姿勢時振戦と見分けにくいことも多いです。

強い抵抗に逆らって力を入れた際に震える(等尺運動時振戦)

重い物を持ち上げたときなど、強い抵抗に逆らって力を入れた際に出現する震えです。これのみが出現しているのであれば特に病的ではないことが多いです。
※上に書いたような分類はあくまでだいたいの目安ですし、複数のタイプが混ざっているようなふるえ方の患者さんも多いです。ただし大体どのような震えのパターンかをある程度自分で把握しておいていただけると診察の際にも助かります。

ふるえ(振戦)が出る病気

本態性振戦

50歳以降の方に起こりやすい病気です。高齢者の数%~10%くらいはこの震えを持っているとされており、いわゆる「歳とったら手が震えるようになった」というタイプの震えです。ただし20歳前後の方にも発生することがあり、注意が必要です。
原因ははっきりとは分かっていません。「箸を持った時だけ震える」「コップを手で持ち上げたら震える」など、手を挙げて何かをしようとした際に震えますが、何もせずにじっとしているときに震えが出にくいという特徴があります。 手が震えることが多い病気ですが、頭全体が震えたり、顎のあたりが震えたりする患者さんもいます。
震えだけが何年も続いているという方はこの病気であることが多いです。また、手の震えは左右とも同程度であることが多いです。
左右で震えの程度が極端に違っていたり、震えの症状に加えて他の症状(無表情、動作が少なくなる、関節に力が入って固まってくる、歩くときのバランスが悪くなる等)も徐々に加わってきている場合はパーキンソン病やその他の神経の病気である可能性が高いです。
また、本態性振戦の患者さんはアルコールを摂取すると多くの方が一時的に(1時間程度)震えがよくなるという特徴があります。
日常生活で困らない程度の震えであればそのまま様子を見ても構いませんが、震えがひどくて生活に支障があるような場合はβ遮断薬(アロチノロール)という薬や、抗不安薬・抗てんかん薬などを飲んでいただくこともあります。

パーキンソン病

これも50歳以降の方に多い病気ですが、この病気をもつ人は本態性振戦よりも圧倒的に少ないです(0.1%~0.3%程度)。40歳くらいで発症する若年性パーキンソン病もあります。神経の信号を伝えるドーパミンという物質の働きが低下して起こります。
震えの特徴としては安静にしているときに出る震えで、本態性振戦とは逆に手足を動かすときには震えが軽くなったりもします。多くは片側の手足から震えが始まり、数年以上かけて徐々に両手両足に広がります。
手足の震えの他にも「仮面様顔貌(無表情になる)」、「筋固縮(筋肉が固くなり、動きがスムーズでなくなる)」、「すくみ足(歩くときに一歩目が踏み出せなくなる)」、「姿勢反射障害(いったんバランスを崩すと立ち直れずそのまま転ぶ)」、「突進現象(歩いていると加速して止まれなくなる)」などの症状が出ることがあり、時間をかけて徐々に進行していきます。
治療としては薬物療法、手術などがありますが、パーキンソン病の可能性がある方は診断や治療を含めて専門の病院(脳神経内科)に紹介させていただきます。
本態性振戦やパーキンソン病の薬は長期間のんでいると徐々に効かなくなってくる患者さんも多いです。最近では本態性振戦に対して脳深部刺激療法(DBS)という手術や、集束超音波治療(FUS)という治療法も専門の病院で行われています。それぞれにリスクはありますが、ご希望の場合は専門の病院にご紹介します。
▪︎脳深部刺激療法(DBS)
頭蓋骨に小さな穴をあけ、そこから細い電極を脳の深部の特定の部位に埋め込んで傷を閉じます。電極から弱い電流を流しつづけることで神経細胞の活動がうまく調整されて震えが止まります。電流を流すための器械も鎖骨の辺りの皮膚の下に埋め込みます。
▪︎収束超音波療法(FUS)
振戦の原因となっている脳の部位に対して体の外から超音波を多数あてる治療法です。これにより振戦の原因部位が破壊され、震えが止まります。 DBSのように頭を手術で切り開かなくてもよいというメリットがあります。

小脳にできた脳梗塞、脳出血、脳腫瘍など

脳梗塞や脳出血や脳腫瘍などが耳の後ろくらいにある「小脳」という部分にできた場合は、どの病気でも手の震えが出る可能性があります。その際の震えは、何かの目標物に向かって手を動かす時に出やすいという特徴があります(例:コップで水を飲もうと口に近づけたときに震える、部屋の電気のスイッチを押そうと指を伸ばした際にスイッチ近くに来ると震えてしまって上手く押せない、など)。CTやMRIで診断可能な場合が多く、必要に応じて高度な医療機関に紹介させていただきます。
その他、何らかの薬剤や薬物・アルコールによる手の震えや、甲状腺機能亢進症という病気で生じる震えなどもあります。